D'Angelicoとは
D'Angelicoは20世紀を代表するアメリカのギターメーカー。Gibson、D'Aquistoと並び、ジャズギターの分野において古くから活躍しているブランドです。
ジャズギターといえばフルアコースティックギター(通称:フルアコ)と言っても過言ではないほど、強く結び付きがあります。
フルアコとはボディ内部が空洞となっているフルホロウ構造のエレキギターの総称であり、D'Angelicoはそのフルアコ製造の代表的なメーカーの一つです。特にNew Yorkerというモデルは洗練されたジャズギターとして非常に高い評価を誇りました。
歴史
ブランドとしては1932年にジョン・ディアンジェリコ(John D'Angelico)がマンハッタンのリトルイタリーにギター工房を設立したのが始まり。ジョン・ディアンジェリコはヴァイオリン&マンドリン製作の職人である祖父の下、僅か9歳で見習いとして働き始めていました。そこでアーチトップギター製作の下地となるノウハウを身に付け、洗練されたフルアコ製作へと昇華されます。
彼の工房には弟子としてジミー・ダキスト(Jimmy D'Aquisto)がおり、後のD'Aquistoというギターブランド設立へと繋がります。
また、彼はD'Angelicoの名でミュージシャン達の要望に応えたギターを作ることに喜びを感じていたそうで、大手会社からの仕事の依頼は断り続けていたとのことです。設立からディアンジェリコ氏が亡くなる1964年までの間に1,164本のギターが製作されました。
彼の没後、D'Angelicoの技術を継承した弟子であるジミー・ダキストがD'Aquistoの名でギター製作を開始します。
1988年、日本のベスタクス株式会社が寺田楽器に発注しD'Angelicoのレプリカモデルの生産販売を開始。
その日本製レプリカモデルをアメリカ合衆国で輸入販売するため1999年にD’Angelico Guitars of America LLC(通称:米ディアンジェリコ)が設立されました。その後ベスタクス株式会社と米ディアンジェリコの間で権利争いが起き、現在では米ディアンジェリコがラインナップを増やしながらD'Angelico名義での事業を継続しています。
主な製品
現在新しく開発されているものを含め、製品のバリエーションが豊富なD'Angelicoですが、その中でも代表的なシリーズをご紹介致します。
Excel(エクセル)
17インチ、カッタウェイ構造のフルアコ。

Gibson L-5 CESを愛用していたことで知られるウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)も使用していたそうです。現代版のEXL-1はラッセル・マローン(Russell Malone)等のモダン〜コンテンポラリー・ジャズで活躍するジャズギタリスト達に愛用されています。
New Yorker(ニューヨーカー)
18インチ、カッタウェイ構造のフルアコ。

ジョージ・ベンソン(George Benson)を始めとした数多くのジャズギタリストが愛用。ジャズギターのサウンドとしてこのギターによる演奏を思い浮かべる方も多いのではないかと思います。
DELUXE SS(デラックス エスエス)
15インチ、シングルカッタウェイ構造のセミホロウギター。

米ディアンジェリコによって開発された新世代のモデルです。現代ジャズギタリストの代表格、カート・ローゼンウィンケル(Kurt Rosenwinkel)はこのモデルをベースにしたシグネチャーモデルを使用。
コンテンポラリージャズ以降のより洗練されたジャズギタリスト達に使用者が多い他、ハイエイタス・カイヨーテ(Hiatus Kaiyote)のネイ・パーム(Nai Palm)等も使用。
Atlantic(アトランティック)
Seymour Duncan製ハムバッカーを搭載したソリッドボディのエレキギター。

こちらもSSと同様の新世代モデルです。近年のハービー・ハンコック・グループでの凄まじい演奏で知られるアフリカ出身の鬼才、リーオネル・ルエケ(Lionel Loueke)がDeluxe Atlanticを使用しています。
ソリッドギターという特性上、ジャズ以外での使用も多いようです。
また、近年はアコースティックギターやウクレレといったアコースティック楽器の製造も行っており、そちらの人気も高いようです。
特徴
主にフルアコに焦点を当てて解説致します。
ピックアップはフローティングのフロントポジションのみで、コントロールノブがピックガード上に配置される等、ボディの穴空け加工を極力排除した構造になっています。
L-5やES-175等の甘く太いサウンドのGibson製フルアコと比較すると、中音域が落ち着きアコースティックな部分の質感がより強調されたサウンドが特徴的です。
4ビートのバッキングなどでのシンプルなストロークパターンにおいても、そのアコースティック感の強さが活き、絶妙なスウィングのグルーヴを生みます。
また、トーンを絞っても本体の鳴りによる高音域の存在感が消えないのが美味しいポイントで、ジム・ホール(Jim Hall)系の篭ったサウンドでもピッキングの輪郭をしっかりと残すことが出来ます。
Gibsonのフルアコがブルースやカントリー等、ジャズ以外のジャンルでも多くの使用者がいたのに対し、D'Angelicoがジャズ中心での活躍だったのも、この辺りの特徴が理由と言えるでしょう。
主な使用アーティスト
George Benson(ジョージ・ベンソン)

Kurt Rosenwinkel(カート・ローゼンウィンケル)

Lionel Loueke(リオーネル・ルエケ)

Nai Palm(ナイ・パーム)

Russell Malone(ラッセル・マローン)

Jonathan Butler(ジョナサン・バトラー)
